2025.11.04

「うまみ」が和食やだし文化を支える?日本で発見された第5の味覚とは

日本の和食を語るうえで欠かせない「うまみ」は、第5の味覚として、日本で発見されました。昆布やかつお節、干し椎茸などの食材に含まれるうまみは和食の味を支える柱となり、今や世界でも「UMAMI」として広く認知されています。本記事ではうまみとは何かを解説するとともに、日本の食文化との関わりや和食と和菓子に共通する魅力をご紹介します。味覚の奥深さに触れながら、日本の食文化が持つ豊かさを感じてみましょう。

「うまみ」とは
和食の昆布出汁から日本人が解き明かしたグルタミン酸と味覚

うまみは、甘味・塩味・酸味・苦味と並び、ほかの味を混ぜ合わせることでは作り出せない独立した味を指す「基本味(きほんみ)」のひとつで、1908年に東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗博士により発見され、5つめの基本味として加えられた味覚です。

博士は日本で古くから料理に使われてきた昆布出汁に注目し、グルタミン酸がその主成分であることを突き止めました。そしてそのグルタミン酸を昆布から抽出することに成功したのです。※2
その後もさまざまな研究者の手により、かつお節のイノシン酸や干し椎茸のグアニル酸などもうまみ成分であることが発見されました。

日本で発見されたうまみは、食材の味を引き出し、料理に深みを加える欠かせない存在であり、今や「UMAMI」として世界的に認知される味覚となっています。※1※2

無形文化遺産の和食
「うまみ」を組み合わせた相乗効果で広がるおいしさ

うまみグルタミン酸

2013年、日本の「和食」はユネスコ無形文化遺産に登録されました。※3
その登録申請の際、和食の特徴のひとつに挙げられたのが「食材の持ち味の尊重」でした。うまみは、和食のこの特徴と深く関わっています。

和食では、食材からうまみ成分を引き出した「だし」が欠かせません。うまみの代表的な成分であるグルタミン酸は昆布出汁に、イノシン酸はかつお節から抽出するかつお出汁に、グアニル酸は干し椎茸でとる出汁に多く含まれています。これらのうまみ成分は料理の味を下支えし、自然が育んだ食材のおいしさを引き出す役割を果たしています。

さらに注目したいのが、うまみ成分を組み合わせたときに生まれる「うまみの相乗効果」です。グルタミン酸とイノシン酸、あるいはグルタミン酸とグアニル酸を組み合わせると、うまみの強さが最大で7〜8倍にもなることがわかっています。※2つまり、異なる種類のだしを上手に合わせて使うことで、より深く、満足感のある味わいが生まれるのです。

和食では、伝統的に昆布とかつお節を組み合わせた「合わせだし」を使う場面が多くありました。味を分析する技術がなかった時代から、人々はうまみの相乗効果を感じ取り、日々の食卓に取り入れていたのでしょう。

おいしさを感じるキーポイント
「うまみ」を実感するために大切な習慣とは

うまみグルタミン酸

食材選びやだしの取り方といった調理の工夫だけでなく、うまみをしっかり感じてよりおいしく食べるために、「よく噛むこと」を心がけてみてはいかがでしょうか。

味を感じ取るのは、舌にある味蕾(みらい)という器官です。食べ物を口に入れると、唾液が味の成分を味蕾に運びますが、唾液が多いほどうまみを強く感じることがわかっています。よく噛むことで、歯や舌、口の粘膜に加わる刺激や、あごの動きによる刺激が脳に伝わり、より多くの唾液が分泌されて、味が味蕾に届きやすくなります。甘味や塩味と違い、はっきりとは分かりにくいうまみも、よく噛むことで強く感じ取れるようになるのです。

また、よく噛むことによって食材の味わいをよりよく感じられるだけでなく、香りや食感を楽しむことにもつながります。じっくり咀嚼して味や香りを感じ、脳が多角的に食感をとらえることで、食事の満足度も高まるでしょう。
加えて、咀嚼はあごの骨や筋肉の発達を促し、分泌された唾液は健やかな口内環境をサポートします。※4

よく噛むことは、うまみを味わう手軽な方法のひとつです。ひと口ずつじっくり噛んで食べれば料理の味わいがより広がり、食事そのものを深く楽しめることでしょう。

☆咀嚼についてはこちらの記事もぜひご覧ください。
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和食や和菓子に息づく細やかな感性
日本ならではの食文化の共通点

うまみグルタミン酸

和食だけでなく、和菓子も日本ならではの食文化であり、これらには深い共通点があります。

和菓子は、甘味を軸にしながら季節の食材も使い、四季折々の自然や行事を表現しています。一方、和食はうまみを活用して旬の食材が持つ味を引き出しています。器選びや盛り付けにも季節感が重んじられ、目で見て、香りを感じ、舌で味わう、五感を使った楽しみ方が受け継がれてきました。

和食と和菓子はどちらも、食を通して自然の恵みや季節の移ろいを映し出し、人々の心にそっと寄り添います。そこには、自然を敬い、細やかな美しさを大切にする日本文化が息づいているのでしょう。

食の楽しみは単なるおいしさを超え、自然や四季の移り変わり、文化や伝統と深く結びついています。日々、日常の食事でも、食材が本来持つうまみや、食材の魅力と基本味との調和を感じ、料理をじっくり味わうことを心がけて、食事の時間を豊かなひとときにしてみませんか。

☆日本の伝統的な食文化についてはこちらの記事もぜひご覧ください。
四季折々の和菓子の種類!世界に知ってもらいたい日本伝統の食文化

【参考文献】
※1 独立行政法人農畜産業振興機構「毎日の食卓をよりおいしく!〜うま味調味料の活用術〜」
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002153.html
※2 日本うま味調味料協会「『うま味』ってなんだろう?」
https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/
※3 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/
※4 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム〜健康づくりサポートネット〜「歯・口の機能」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-001

  • いしもとめぐみ

  • ライタープロフィール
    いしもとめぐみ
    管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。