肌寒くなってくると無性に食べたくなる「ぜんざい」。でも、ぜんざいは冬限定のお菓子ではありません。今ではコンビニや和菓子店で年間を通して手に入りますし、夏には「冷やしぜんざい」なるものを目にすることも増えてきました。
今や季節を問わず楽しめるぜんざいですが、そのルーツや「おしるこ」との違いとなると、知っているようで案外知らないもの。
そこで、今回はそんな身近だけど意外と知らないぜんざいのディープな世界を紐解き、その文化的な背景を分かりやすく解説します。
ぜんざいのルーツ?出雲の「神在祭」と「神在餅」の関係

「ぜんざい」は一般的に、小豆を甘く煮たものに餅や白玉団子を入れた和菓子を指して呼ぶ言葉です。発祥については諸説ありますが、島根県の出雲地方に伝わる「神在餅(じんざいもち)」を由来とする説が知られています。
この地域には旧暦の10月に全国の神様が集まるとされ、古くから「神在祭(かみありさい)」が開催されていました。この祭りには小豆の雑煮「神在餅(じんざいもち)」をお供えしたり、家々で食べたりする習慣があったとされています。そして「じんざい」という言葉が出雲弁で訛って「ずんざい」となり、さらに京都へ伝わる過程で「ぜんざい」へと変化したのが、ぜんざいという名前のルーツであるとする説があります。
また、「ぜんざい」の語源とされているお話でもうひとつ有名なものは、室町時代中期の僧侶・一休さんにまつわる逸話です。当時、餅入りの小豆汁と呼ばれていた料理を口にした一休さんがあまりのおいしさに、仏教用語で「よい」「すばらしい」を意味する「善哉(よきかな)この汁」と言ったことから名づけられた、という伝承もあります。「善哉」は音読みすると「ぜんざい」です。ぜんざいはお坊さんや神様さえ、とりこにしてきたようですね。※1
☆日本における四季の和菓子に欠かせない“お餅”を使った和菓子については、こちらもあわせてご覧ください。
・「中秋の名月」十五夜はいつ?お月見の楽しみ方と月見団子のレシピ
・端午の節句の食べ物と飾りの由来。柏餅やちまきに込められた子どもたちへの思い
室町〜江戸時代へ。甘くなかったぜんざいの歴史

柔らかいお餅と甘い小豆のマッチングが魅力のぜんざいですが、江戸時代より前は現代のように誰もが甘さを楽しめるものではありませんでした。
というのも、日本では長い間、砂糖は高価で、誰もが気軽に手にできるものではなかったからです。どうしてもお菓子に甘みを付けたい場合は、ツタなどのつる性植物の液汁を煮詰めた「甘葛(あまづら)」という甘味料も使われていました。※2
室町時代になってから砂糖が継続的に輸入されるようになったものの、それでも砂糖を使った甘いお菓子は庶民の口には簡単に入りません。当時のぜんざいは「小豆汁」と呼ばれていて、主に塩で味付けされた「塩小豆」の汁物でした。
さらに時代が進み、砂糖が日本で広く普及していく背景には、8代将軍・徳川吉宗による砂糖の国産化(サトウキビの栽培)の奨励がありました。18世紀後半以降、国内での砂糖生産が進むとともに、砂糖の流通も徐々に増え、江戸時代後期には小豆を砂糖で甘く煮た「ぜんざい」や「おしるこ」が、江戸や上方で庶民の間に広まっていったのです。※3
では、神在餅や一休さんが食べたとされる小豆汁も、現在のような砂糖で甘く味付けされたものではなかったのでしょうか。当時における砂糖の普及状況を考えると、現在のぜんざいとは異なる味だった可能性があります。一休さんも、素朴な小豆の風味とお餅のおいしさに「善哉(よきかな)」と感嘆したのかもしれません。
☆お砂糖の歴史と成分について、こちらでも詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。
・黒糖と白砂糖の違いとは ミネラルが含まれるサトウキビのコクを活かした使い方
知っているようで知らない…
「おしるこ」と「ぜんざい」の違いは?

ところで「ぜんざい」と「おしるこ」はどう違うのでしょうか。両者は地域やお店によって呼び方や定義が異なります。ここでは一般的な傾向として、関東と関西の違いを紹介します。
関西では、ぜんざいとおしるこを「あんこの種類」で区別することが多いとされています。粒あんの汁物を「ぜんざい」、こしあんの汁物を「おしるこ」と呼ぶのが一般的な分け方です。そして、汁気がなくお餅や白玉の上にどろりとした濃厚なあん(粒あん)がかかっているものは「亀山」または「金時」「小倉」と呼ばれます。※4※5
一方、関東では「汁気の有無」で区別することが多いとされています。汁があれば粒あんでもこしあんでも「おしるこ」、汁気がなくお餅にあんを乗せたものを「ぜんざい」と呼ぶのが一般的です。関西でいう「亀山」にあたるものが、関東では「ぜんざい」と呼ばれるという違いがあります。
ただし、関東・関西ともに地域やお店によって呼び方や定義が異なる場合があり、例えば関東でも汁気のある粒あんを「ぜんざい」と呼ぶお店があるなど、一概には言えません。
● 汁気ありの「粒あん」→関西ではぜんざい・関東では(田舎)しるこ
● 汁気ありの「こしあん」→関西ではおしるこ・関東では(御前)しるこ
● 汁気なしの「粒あん+餅」→関西では亀山・関東ではぜんざい
このような違いが生まれた理由は、はっきりしたことは分かっていません。ただ、江戸時代にはすでに東西で違いがあったようです。「ぜんざい」という言葉を聞いても人によって連想するものが違うのは面白いですよね。※4
☆粒あん・こしあんを使ったおなじみのあの和菓子について、詳しくはこちらをご覧ください。
・おはぎとぼたもち、違いは季節?春のお彼岸にはぼたもちを
地域ごとに異なる呼称や特徴 ご当地ぜんざいの世界

ここまで見てきたように、「ぜんざい」は地域によって呼び方や特徴が異なります。入っているお餅ひとつを取り上げてみても、個人の好みやお店による違いはあるものの、関東では焼いた角餅(切り餅)が一般的、関西では焼いていない丸餅が多いとされます。焼くか煮るかも地域や家庭によって分かれるため、旅先で出会う一杯ごとの違いも楽しみのひとつです。
また、「ぜんざい」発祥の地とされる出雲では、縁起の良い紅白の丸餅が入った「出雲ぜんざい」が名物として愛されています。地元のブランド小豆「出雲大納言小豆」を使った粒あんは、煮ても皮が破れにくく、香り高く仕上がるとされています。甘さ控えめのすっきりした出雲ぜんざいは、塩昆布と一緒にいただくのが定番です。※6
福岡市博多区では、かつて「日本一甘い」と評判を呼んだぜんざいが食べられます。それは地元の商店街が復活させたという「川端ぜんざい」で、甘いもの好きなら一度は味わいたい名物ぜんざいです。また、大阪・難波には、織田作之助の小説「夫婦善哉」に登場する甘味処があります。ここでは1人前のぜんざいをあえて2つの椀に分けて提供しており、「夫婦円満」や「恋愛成就」の縁起物としても親しまれています。※4※7
さらに、沖縄のぜんざいは汁物でもなく、あんこの和菓子でさえありません。それは何と砂糖や黒糖で煮た金時豆の上に、かき氷をのせた夏のひんやりスイーツです。また、トロピカルなマンゴーや紫芋などを使ったぜんざいも登場しています。※8
「お餅とあんこ」という和菓子にとってはなじみの深い素材を使ったぜんざいですが、調べてみると地域や時代によってさまざまな形で親しまれてきたことが分かります。
皆さんはどんなぜんざいがお好みでしょうか。違いを楽しみながら、さまざまなぜんざいを食べ比べてみるのも良いかもしれませんね。
☆くつろぎタイムにはさっくりと甘くてしょっぱい「雪の宿」もおすすめです。
【参考文献】
※1 遠州流茶道宗家
https://www.enshuryu.com/%e4%ba%ba%e7%89%a9/%e4%b8%80%e4%bc%91%e3%81%95%e3%82%93%e3%81%a8%e5%96%84%e5%93%89%ef%bc%88%e3%81%9c%e3%82%93%e3%81%96%e3%81%84%ef%bc%89/
※2 独立行政法人 農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000074.html
※3 精糖工業会
https://seitokogyokai.com/knowledge/propagation/
※4 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZZO03581380U6A610C1000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXNASJB0702P_X01C13A1AA1P00/
※5 一般社団法人 日本educe食育総合研究所
https://www.educe-shokuiku.jp/news/shokuiku/zenzai-shiruko/
※6 出雲蕎麦と美食の旅
https://izumosoba-bisyokutabi.jp/feature/zenzai/
※7 上川端商店街振興組合
https://hakata.or.jp/zenzaihiroba/
※8 オリオンビール株式会社
https://www.orionbeer.co.jp/story/okinawa-zenzai/
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。


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