2024.07.01

子どもの咀嚼力は脳の発達や歯並びにも影響する?噛む力の大切さとは

子どもの発達において、よく噛んで食べることはとても重要です。咀嚼(そしゃく)に問題があると消化・吸収に時間がかかるだけでなく、脳の発達や歯並び、健康にも影響することがわかっています。最近は、咀嚼力が弱い子どもが増えているといいます。今回は子どもの咀嚼の大切さと、噛む力をつけるためのおやつを紹介します。

咀嚼は子どもの発達にどう影響する?よく噛むことのメリット

咀嚼とは食べ物を歯で細かく砕いたりすりつぶしたりし、唾液と混ぜ合わせて飲み込む一連の動作を指します。生まれたばかりの子どもには母乳やミルクを吸う力しかありませんが、離乳食から幼児食へ移行しながらさまざまな食経験を積むことで、少しずつ噛む力を身につけていきます。

子どもは食べ物を消化するのに時間がかかりますが、噛む力が十分に備われば食べ物を細かく噛み砕き、体に負担をかけることなく消化・吸収できるようになります。また、よく噛むことで満腹中枢が刺激され、満腹感を感じやすくなり、食べすぎによる肥満の予防にもつながります。

咀嚼は体の発達にも影響を与えます。噛む力は顎の骨や筋肉の発達と関係しています。そのため、噛む力が弱いと顎が小さくなり、歯並びや上下の歯の噛み合わせが悪くなる可能性があります。また、咀嚼することで表情筋が刺激され、表情がより豊かになります。噛む力がつくと口のまわりの筋肉も鍛えられるため、言葉の発音がよくなる効果も得られるでしょう。※1

よく噛むと脳が活性化する?記憶力や集中力を高める咀嚼の力

子どもが集中している様子

咀嚼は脳の発達にも影響を与えます。よく噛むと筋肉の収縮により顔まわりの血管や神経が刺激され、脳への血流量が増し、活性化されます。

幼児を対象にした研究で咀嚼と記憶力の関係を調べたところ、通常の給食を食べたグループよりも、噛みごたえのある食材を加えた給食を食べたグループの方が、記憶力テストの成績がよいという結果に。これは咀嚼によって脳内の記憶を司る「海馬」が活性化されたことで、記憶力が高まったためと考えられています。※2

また、咀嚼は脳に働きかけて「セロトニン」というホルモンの分泌を促すことがわかっています。セロトニンとは精神の安定に作用するホルモンで、別名「幸せホルモン」とも呼ばれています。セロトニンの分泌量が低下すると不安を感じたり、集中力が低下しやすくなります。

セロトニンの分泌量を増やす方法のひとつとして、咀嚼が有効とされています。咀嚼のように一定のリズムを刻む運動をおこなうと、脳が活性化されてセロトニンの分泌が促進されるそうです。咀嚼には記憶力や集中力を向上させて、子どもの能力を高める効果が期待できるでしょう。

☆正しく咀嚼することはほかにもさまざまなメリットがあります。
咀嚼で増える?マイオカインという幸せホルモンに似た物質の正体とは

咀嚼のメリットはほかにも!子どもの健康を支える唾液の役割

乳歯の子どもたち

食べ物を咀嚼すると、口の中にじわっと唾液がにじみ出てきます。唾液は、口や体の健康を守るさまざまな役割を担っています。

口の健康で気になることに、虫歯や歯周病を挙げる人は多いでしょう。虫歯ができるのは、口の中に生息するミュータンス菌が原因です。ミュータンス菌は、食べ物から取り入れた糖分を利用して歯垢を作ります。歯垢の中でミュータンス菌はさらに増殖し、糖分から酸を作り出すため、歯が溶けて虫歯になるのです。

唾液には、酸の作用を和らげる働きがあります。加えて唾液は歯の再石灰化を促し、酸によりダメージを受けた歯を回復させることで、虫歯を防いでいます。歯周病は「大人がかかる病気」というイメージがあるかもしれませんが、歯周病の前段階である歯肉炎は子どもでも見られます。歯肉炎が起こるのは、歯に汚れや歯垢が付着するためです。唾液により口の中の汚れが洗い流されると、歯肉炎の予防にもつながります。※3

感染症を防いで全身の健康を守ることも、唾液の役割のひとつです。感染症を起こす細菌やウイルスは、口や鼻、目から侵入します。口内に細菌やウイルスが入り込むと、唾液に含まれる免疫物質「免疫グロブリン」が異物の排除に働きます。唾液が細菌やウイルスを洗い流すことで感染症から守られるのです。咀嚼によって分泌される唾液には、このように子どもの健康を守る多くの役割があります。※4

おやつで工夫を!子どもの噛む力を鍛える食べ物とは?

子どもの噛む力を育むおやつ

幼児食が始まる2〜3歳頃には乳歯が生えそろい、噛み合わせが安定してきます。この時期はある程度固いものや繊維のあるものを少しずつ取り入れ、しっかりと噛んで食べる習慣を育みましょう。

子どもの噛む力を育むには、おやつの時間も有効です。にんじん・大根・かぶ・パプリカなどを使用した野菜スティックは栄養も補給でき、噛む力を高めるのにもおすすめです。野菜は皮をむいてスティック状にカットし、年齢に合わせた固さにゆでましょう。
3歳前後になると生野菜を噛めるようになりますが、噛む力には個人差があります。大人がそばに付いて様子を見ながら食べさせましょう。※5

おにぎりは固さのあるちりめんじゃこや桜えびを混ぜると、咀嚼する回数を増やせます。ひと口で食べられるような小さなおにぎりはそのまま飲み込む恐れがあるので、大きめサイズで作って、ひと口ずつかじりながら食べる練習をさせましょう。※6

また、適度に固さがあり、よく噛むことが必要なおせんべいもおすすめです。子どものおやつには、シンプルな素材で作られた味が濃すぎないおせんべいを選びましょう。よく噛んでゆっくり食べるように、声を掛けながら与えます。

咀嚼回数を増やして噛む力をつけるには、音を楽しみましょう。野菜を噛む「ぼりぼり」、おせんべいの「ぱりぱり」など、親子で一緒に楽しめるといいですね。小さな子どもには「こうやって噛むんだよ」と親が噛む姿を見せてあげると、まねをして噛むようになりますよ。

虫歯予防のために、おやつの際はお茶や水などの水分を添え、食後は歯磨きやうがいをしましょう。
噛む力は脳の発達や歯並びなど、子どもの健やかな成長に大きく影響します。よく噛むことで分泌される唾液も、子どもの健康維持に大切な役割を果たします。おやつを楽しく食べながら、子どもの噛む力を育みましょう。

☆子どもの「口内の成長」についてはこちらもご覧ください。
【小児歯科医に聞く】おやつで簡単!「口内の成長」を確認する方法とは


【参考文献】
※1 文部科学省「歯・口の健康づくりの理論と基礎知識」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/06/23/1306939_03.pdf
※2 独立行政法人農畜産業振興機構
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2107_wadai1.html
※3 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-01-001.html
※4 公益社団法人 日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/pdf/health/hatookuchi_20210601_2.pdf
※5 一般社団法人 母子栄養協会
https://boshieiyou.org/stickveg/
※6 こども家庭庁
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/03f45df9-97e1-4016-b0c3-8496712699a3/39b6fd36/20230607_policies_child-safety_effort_guideline_02.pdf


  • いしもとめぐみ

  • ライタープロフィール
    いしもとめぐみ
    管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。