節分というと近年は恵方巻の話題が多く聞かれますが、「鬼は外、福は内」の掛け声とともに豆をまき、年齢と同じ数の豆を食べることで邪気を払って健康を願う伝統行事として広く根付いています。しかし、豆まきはもともと日本にあった風習ではないことをご存じでしょうか。この記事では、節分の由来や豆まきに煎り大豆を使う理由を解説し、地域による豆まきの風習の違いや大豆の栄養についてご紹介します。
二十四節気の立春がもとに 2月3日とは限らない!節分と恵方はどう決まる?
2月3日は「節分の日」として知られていますが、2025年の節分の日は2月2日です。
節分には「季節を分ける」という意味があり、もともとは春夏秋冬それぞれの季節がはじまる日の前日が節分とされていました。旧暦で年初にあたる春の節分は特別な日として祭事が行われてきました。このため、旧暦を使わなくなった今も春の節分だけは季節行事として残っています。現代における「節分」といえば「立春の前日」のことを指しており、節分の日は立春がいつになるかによって決まることになります。
暦のうえでは1年は365日ですが、地球が太陽のまわりを1周する公転周期は365日よりもわずかに長いことがわかっています。この暦と公転周期の差を調整する目的で設けられたのが、4年に一度1年を366日とする閏年(うるうどし)です。ところが閏年だけでは二十四節気との間にずれが残るので、このずれを調整するために立春が1日早まる年があり、その年には節分も2月3日ではなく2月2日になるというわけです。※1
節分といえば近年は「恵方巻き」に注目が集まっていますが、恵方とはその年の歳神様がいる方角で、その方角を向いて恵方巻きを食べると縁起が良いとされています。恵方には東北東、西南西、南南東、北北西の4つの方角があり、その年の恵方は十干(じっかん)によって決まります。十干とは中国の陰陽五行説という考え方に基づいて各年に割り当てられているもので、甲(きのえ)、乙(きのと)、丙(ひのえ)など、十二支と組み合わせて暦や方角などを表します。
なお、2025〜2029年の節分の日と恵方は次のとおりです。
2025年2月2日(日)西南西
2026年2月3日(火)南南東
2027年2月3日(水)北北西
2028年2月3日(木)南南東
2029年2月2日(金)東北東
中国からの伝来した風習が節分の由来
豆まきに「煎り大豆」を使う理由
節分は、中国から伝わった「追儺(ついな)」の風習に由来します。中国では、季節の変わり目は鬼が来て災いや疫病をもたらすとされていて、鬼を追い払い無病息災を願う追儺の儀式が行われていました。奈良時代、日本に伝わり当初は鬼を追い払うために桃の弓と葦(あし)の矢が使われていたようですが、いつからか現代の節分のような豆をまく行事へと変化し、江戸時代には豆まきが広まっていたと考えられています。
鬼を追い払うのに豆が使われる理由には諸説あります。豆には精霊が宿るとされているため、中国の医学書に「大豆は鬼毒を殺し、痛みを止める」と書かれているため、豆が「魔滅(魔を滅する)」に通じるため、などといわれています。※2
なお、豆まきは「煎り大豆」をよく使います。生の豆ではなく煎り大豆をまく理由は、“まいた豆から芽が出る”すなわち邪気が芽吹くことを防ぐためと考えられています。そのほか、煎り大豆には鬼を「射る」効果があるから、という説もあります。
鬼を招き入れるところがある?
豆も掛け声も違う 地域で異なる豆まきの風習
日本各地で行われている豆まきには、地域によって異なるさまざまな風習があります。
豆まきの掛け声といえば「鬼は外、福は内」が定番ですが、東京の浅草寺では「観音様の前に鬼はいない」と考え、「鬼は外」ではなく「千秋万歳、福は内」と言いながら豆まきします。
鬼が投げた石が落ちた場所に町ができたとの言い伝えがある群馬県藤岡市の鬼石地域でも、豆まきでは独特の掛け声が聞かれます。この地域では節分の豆まきで追い出された全国の鬼たちを招き入れるため、「福は内、鬼は内」と言いながら豆をまきます。
一方、京都府福知山市の大原神社では、「鬼は内、福は外」という掛け声とともに豆をまく風習が残っています。大原神社に鬼を迎え入れ、清めて福となったら各家庭に渡すという意味が込められているほか、かつての藩主の名前が「九鬼」だったことに配慮しているともいわれています。
豆まきに使われる豆にも注目してみましょう。豆まきの豆は一般的には煎り大豆ですが、北海道・東北・信越・九州南部では落花生をまく地域があります。落花生を使うのは、大豆よりも大きいため豆まきのあとに回収しやすく、殻がついているので中身の豆がきれいな状態に保たれ安心して食べられることが理由のようです。
なお、煎り大豆は硬く、小さなお子さんにとって噛み砕くのは容易ではありません。節分の豆が喉や気管に詰まってしまう可能性も指摘されており、近年は誤嚥を防ぐため個包装された豆やお菓子をまく人も増えています。※3
栄養豊富な大豆を食べて、冬を乗り越える健康を手に入れよう
節分には自分の年齢と同じ数、もしくは年齢+1個の豆を食べる風習があります。豆は古くから神聖なものと考えられており、豆を体に取り入れることで邪気を払い、無病息災を願う意味が込められているのです。
また、大豆は「畑の肉」と呼ばれるほどたんぱく質が多く含まれる食品です。たんぱく質は皮膚や筋肉、内臓などのもとになるだけでなく、感染症などから体を守る免疫機能に欠かせない「抗体」の成分としても大切な栄養素です。※4
さらに、大豆には体を動かすエネルギー源となる脂質も含まれています。節分の頃は1年でもっとも寒さが厳しい時期で、節分で大豆を食べることには感染症などを防いで健康を守るとともに、冬を乗り越えるためのエネルギーを蓄える意味があるのかもしれません。※5
煎り大豆はそのままだと食べにくいと感じる方もいらっしゃるでしょう。そのような方は、煎り大豆の代わりに豆入りおせんべいやおかきを食べてみてはいかがですか?小さなお子さんやご高齢の方も食べやすく、大豆の栄養を手軽に取り入れることができます。ご家族で節分の豆まきを楽しみながら健康のために大豆を食べ、無病息災を祈りましょう。
節分で豆を食べるなら、風味豊かな黒大豆がたっぷり入った丸大豆せんべいもおすすめです。
☆健康を祈って和菓子を食べる「和菓子の日」についてはこちらで紹介しています。
・和菓子の日とは?和菓子の日の歴史と厄除けと招福の関係
☆さまざまな種類があり、古くから食べられてきたせんべいの歴史についてはこちらで紹介しています。
・お煎餅の歴史とは?国民的アニメにも描かれた日本のソウルフード
☆煎り大豆など歯ごたえのある食べ物は咀嚼回数を増やします。こちらもご覧ください。
・咀嚼で増える?マイオカインという幸せホルモンに似た物質の正体とは
【参考文献】
※1 国立天文台 暦計算室
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B5A8C0E12FC6F3BDBDBBCDC0E1B5A4A4CECAD1C6B0A4C8A4A6A4EBA4A6C7AFA4CECCF2B3E4A4C8A4CF.html
※2 国立国会図書館 本の万華鏡
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/21/1.html
※3 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_047/assets/caution_047_210120_0001.pdf#page=1
※4 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-044.html
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-014.html
※5 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2102/spe1_01.html
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ライタープロフィール
いしもとめぐみ
管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。
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