摂関政治が行われていた平安時代は、日本の風土に合った国風文化が花開いた時代です。現代でも読み継がれている紫式部の源氏物語は、そんな平安時代を代表する作品のひとつ。源氏物語の中には、お菓子も登場します。作者の紫式部が生きた時代には、どのようなお茶菓子が食べられていたのでしょうか。お茶の起源とともに注目しました。
紫式部が生きた平安時代はどのような時代?
平安時代は桓武天皇が平安京に都を移した794年から、鎌倉幕府が成立するまでの約400年間を指します。当時は朝廷と貴族が力を持っていました。※1
やがて日本独自の文化が重要視されるようになり、貴族の住宅様式である寝殿造や仮名が発達するなど、唐風文化を進化させた国風文化が発展します。文学では竹取物語、古今和歌集、紫式部の源氏物語、清少納言の枕草子、紀貫之の土佐日記など、現在も読み継がれている作品が生まれました。※1
2024年の大河ドラマでは平安時代を舞台に紫式部の人生が描かれます。平安時代の女性は本名が不明なことが多く、役職名や家族との続柄を表す呼び名が現在に伝わっています。紫式部も本名は不明ですが、もともとは家族との続柄に関わる「藤式部」という名で呼ばれていたようです。源氏物語が有名になってから登場人物の紫の上にちなんで「紫式部」と呼ばれるようになったといわれています。※2
平安時代に食べられていたお菓子
紫式部が生きた平安時代には、どんなお菓子が食べられていたのでしょうか。現在、和菓子や洋菓子の甘味には、主に砂糖が使われています。砂糖が日本に入ってきたのは奈良時代で、中国から伝わったといわれています。平安時代において砂糖は非常に貴重なものであり、薬として扱われていたとの記録が残っています。※3
平安時代にお菓子の甘味付けとして使われていたのは、ツタの樹液を煮詰めたシロップのような「甘葛(あまづら)」、米もやしや麦芽のでんぷんから作られる「飴」、米を発酵させた「甘酒」などだったといわれています。枕草子には削り氷に甘葛を掛けたかき氷のようなお菓子が登場し、当時食べられていたお菓子の様子をうかがわせます。※3※4
また、平安時代には中国から伝わった「唐菓子(からくだもの)」もありました。唐菓子は米や小麦、大豆、小豆などを油で揚げたりしたお菓子で、和菓子のルーツともいわれています。当時の日本にはさまざまな形の唐菓子が伝わっており、祭祀用のお菓子として用いられていたのではないかと考えられています。※4
紫式部作「源氏物語」に登場するお茶菓子は
源氏物語は平安時代中期に紫式部によって創作された全54帖にわたる長編物語です。主人公である光源氏の恋愛模様や人生を中心に、彼を取り巻く登場人物の感情などが繊細に表現されています。この作品はさまざまな言語に翻訳され、世界各国で知られるところとなりました。※5
平安時代の貴族社会の様子がうかがえる描写も源氏物語が持つ魅力の一つ。34帖の「若菜上(わかなのじょう)」には、若者が蹴鞠をした後に果物やお菓子の「椿もち」を食べている様子が描かれています。※5※6
椿もちと名前の付いた和菓子としては、餡を道明寺生地などで包み、2枚の椿の葉ではさんだものが現代にもあります。濃い緑色をした艶やかな椿の葉が印象的な椿もちは、2月頃に和菓子店で見かけます。※6※7
実をいうと源氏物語に登場する平安時代の椿もちは現代のものと違っていて、もちに甘葛で甘味を付けて椿の葉に包んだお菓子だったようです。紫式部が見ていた椿もちとは異なるものの、平安時代に食べられていたお菓子が現代にも受け継がれていることを知ると、その長い歴史に思いをはせてみたくなります。※6※7
お茶菓子が引き立てるお茶の起源
お茶菓子を食べる時はお茶を用意して楽しむと思います。甘いお茶菓子はお茶の味を引き立てる効果があります。普段は何気なく飲んでいるお茶ですが、どのような歴史を持っているのでしょうか。
日本にお茶が伝わったのは平安時代だという説があります。遣唐使が中国から持ち帰りましたが、当初はあまり普及しなかったようです。日本でお茶が広まったのは鎌倉時代であり、僧侶の栄西などがお茶そのものと飲み方を伝え、発展していったと考えられています。※8
現代では世界各地でお茶を飲む習慣が見られます。お茶を飲む習慣は中国が発祥だといわれているものの歴史が古いため、いつ頃からお茶が飲まれ始めたのかははっきりしていません。※8
中国で茶文化が発展したのは隋や唐の時代だと考えられています。この時代より前はお茶を薬として用いていたようです。このように日本と中国では、それぞれ独自の茶文化が発展していきました※8
日本における茶文化の発展は、和菓子にも大きな影響を与えたといわれています。また、砂糖が手に入りやすくなったことも、その要因となりました。茶道に用いられる和菓子が創意工夫されるようになり、江戸時代に生まれた和菓子が現代にも伝わっています。※6
平安時代に食べられていたお菓子には、甘味を付けるために甘葛などが使われていました。また、お茶菓子に欠かせないお茶は中国が起源であり、こちらも日本に伝わったのは平安時代でしたが、当時は現在のように普及していなかったようです。
今年の大河ドラマは、平安時代中期を舞台に「源氏物語」の作者、紫式部の人生を描いた物語です。宮中のシーンには、当時のお茶とお菓子が登場するかもしれません。今のお菓子との違いにも注目してみてはいかがでしょうか。
☆和菓子とお茶にまつわる話はこちらでも紹介しています。
・お茶請けとは?ピッタリな和菓子の種類は?知っておきたい「お茶請け」の基本
・緑茶、玉露、煎茶って何が違うの?季節の和菓子との組み合わせを考える
・千利休とマインドフルネスから学ぶ!お茶の間で自律神経を整える方法とは
・お茶の種類は100種類以上!発酵の有無で決まるお茶の分類とは
・熟成と発酵の違い お茶は発酵食品?ポリフェノールとお茶の関係とは
【参考文献】
※1 平安時代
https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=1688
※2 紫式部
https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=1149
※3 日本における甘味社会の成立:前近代の砂糖供給
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050564289110184832
※4 和菓子の歴史
https://www.wagashi.or.jp/monogatari/shiru/rekishi/
※5 源氏物語
https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=17
※6 事典 和菓子の世界 中山圭子
※7 椿餅
https://kotobank.jp/word/%E6%A4%BF%E9%A4%85-572177
※8 日中の茶文化と茶産業の発展状況
https://core.ac.uk/download/pdf/147576771.pdf
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ライタープロフィール
はせがわ じゅん(管理栄養士)
WEBメディアで食や栄養に関わる記事の執筆のほか、レシピ開発、栄養計算を行うとともに、年間約300名以上の特定保健指導に携わっています。
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