ストレスや生活習慣の乱れは自律神経のバランスを崩すモト。分かってはいても、自分の生活を変えるのはなかなか難しいものです。そこで注目したいのが、500年以上前の千利休が始めた茶道と、近年注目を集めるマインドフルネス。新旧2つのキーワードから、手軽にお茶の間で自律神経を整えるヒントを考えます。
不眠不休の自律神経−バランスが崩れるとどうなる?
自律神経は、消化に関係した臓器や呼吸、血液の流れなど、大切な体の働きをコントロールしています。
よく知られていますが自律神経には交感神経と副交感神経があり、それぞれがアクセルとブレーキのように働きます。活動時には交感神経の働きが高まり、心拍数が増えて血圧が上がります。逆にリラックスしている時には副交感神経が優位になり、体の興奮状態を静めます。
私たちが意識しなくてもアクセルとブレーキは自動的に切り替わり、体をベストの状態にキープしようとします。※1
ところが、このスイッチがうまく切り替わらなくなることがあります。すると、アクセルを踏み込みたいのに交感神経が機能せず、だるくてやる気が出ないため集中できません。反対にリラックスしたいのに副交感神経が働かず、眠れない、落ち着かないといった状態になることも。いわゆる「自律神経の乱れ」ですね。なかでも今は、交感神経が過剰に働く過緊張の人が多いそうです。※1
自律神経の乱れは便秘や下痢、食欲不振、冷え、めまいや立ちくらみ、体の凝り等の不調にも繋がります。では、このスイッチを正常に戻すために何ができるでしょうか。1つのヒントが、500年前に始まった「茶道」にあります。
千利休に学ぶ!五感を研ぎ澄ます茶道の効果
茶道には、自律神経の乱れを整える要素が凝縮されています。
たとえば、茶道独特のゆったりとした動き。ひとつの所作を丁寧に、時間をかけて行うことで、自然と姿勢が良くなり、呼吸は深く落ち着いたものになります。じつはこれがとても重要。研究者によると、副交感神経を優位にする方法として「呼吸の調整」は非常に効果的なのです。※2
もちろん客としてお茶を頂く時も同じ。お茶を飲む時間、お菓子を頂く時間、道具を見せていただく時間。それぞれに丁寧に時間をかけて集中すると、私たちの呼吸は整い、心身は落ち着き、副交感神経が働くようになります。
そして、抹茶には気分を落ち着かせる成分が含まれているのをご存知でしょうか。特に脳の興奮を抑え、気分を落ち着かせるテアニンが、抹茶には緑茶の10倍も含まれているのです。※3
千利休は茶道の真髄を「四規七則」にまとめました。その中では、ゆとりや和やかさ、季節を感じる心が強調されています。こうした心持ちは今の私たちにとっても、生活を見直し、心身のバランスを整えるうえで大切であることはいうまでもありません。※4
マインドフルネスで作る穏やか且つ集中した意識状態とは
自律神経を整えるのに役立つヒントは、近年話題のマインドフルネスからも得られます。マインドフルネスは、仏教の「常に落ちついた心の状態」を意味する言葉を英訳したもの。東洋的な思想がベースですが、最近ではメンタルトレーニングとして、スポーツやビジネスの場に取り入れられています。※2
マインドフルネスの目的は「今、この瞬間に集中すること」。この後の予定やネガティブな出来事はいったん頭の中から追い出し、今の瞬間に意識を集中します。そのために役立つのが、やはり呼吸。体の状態に注意を集中し、ゆっくり腹式呼吸を行います。ルールはありませんが、4秒息を吸い、7秒息を止め、8秒かけてゆっくり吐き出す「4-7-8-呼吸法」、あるいは「4-4-8呼吸法」が目安になるかもしれません。※2※5
ひとつのものを時間をかけて味わう「マインドフルイーティング」も効果的です。お菓子やお茶をすぐ口に入れず、じっくり観察し、手触りを確かめ、香りをかぎ、口に運んで唇や口の中での感触を感じ、時間をかけて飲み込みます。数分かけてひと口ひと口を味わうことで次第に気持ちが落ち着き、穏やかでありつつ、目の前のやるべきことに集中した意識状態を作り出すことができるのです。※5※6
今日から実践―お茶の間で「整う」自律神経
茶道もマインドフルネスも「ゆったりとした心持ちと呼吸」、そして「今、この瞬間に集中する」ことを大切にしています。
しかし最近では「タイパ」、タイムパフォーマンスという言葉を耳にするようになりました。いかに短時間で成果を上げるか、効率を重視した考え方が重視されています。普段の生活でも食事はテレビを見ながら、出勤はスマホを見ながらなど「ながら生活」が当たり前という人も多いかもしれません。※6
もちろん効率を上げることは大切ですが、もし自律神経がうまく切り替わっていないなと感じたら、1日のうちで5分か10分、テレビやスマホをオフにして、ゆっくりと呼吸し、今の瞬間を五感で楽しむ時間を作ってみてはいかがでしょう。
自宅で本格的なお茶を点てることはできなくても、静かな部屋でお気に入りのカップや湯飲み、大好きなお菓子と落ち着いて向き合うと、新しい発見があるかもしれません。そんなお茶の間のひとときを作ることで自律神経のバランスが整い、気持ちの良い1日を送ることができるといいですね。※6
☆こちらもあわせてご覧ください。
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【参考文献】
※1 自律神経を積極的にコントロールする方法とは?
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/selfcare/autonomicnerves-04/
※2 禅的呼吸法によるストレス低減効果
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/204590/5/dnink00755.pdf
※3 ストレスや不眠に役立つお茶成分「テアニン」って?
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/15/101600042/030200017/
※4 お茶の心ってなんだろう
https://www.urasenke.or.jp/textb/shiru/beginer/kokoro.html
※5 マインドフルネスと呼吸が注目される理由
https://www.asahi.com/sdgs/article/15016216
※6 食べる瞑想「マインドフル・イーティング」
https://www.jpm1960.org/kawara/05/202311-mindful-eating.html
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。
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