2024.03.04

熟成と発酵の違い お茶は発酵食品?ポリフェノールとお茶の関係とは

日本には味噌やお酒など、熟成や発酵された食品が数多くあります。お茶の分類も発酵の有無で分けられますが、お茶は発酵食品なのでしょうか?
お茶の発酵に注目しながら、茶葉の発酵に関わるポリフェノールについてご紹介します。

古くから食べられている発酵食品

チーズやヨーグルト、パン、ワイン、ビールなど、発酵食品は世界中にあります。日本で身近な発酵食品といえば味噌、醤油、漬物、納豆、日本酒などがありますが、これらは日本食には欠かせない食品です。近年では、健康意識の高まりから発酵食品に注目が集まっていますが、発酵食品はいつ頃から食べられているのでしょうか?

人類が発酵食品を食べていた歴史は古く、紀元前から発酵乳や乳製品、ほかにも遺跡からワイン醸造の痕跡が見つかるなど、世界でも古くから発酵食品が食べられてきたことがわかっています。
日本でも古くから発酵食品は食べられており、4〜6世紀頃に中国から伝わった「醤(ひしお)」(醤油の原型)が始まりとみられています。※1

食品は発酵させることでうま味や風味が増し、保存性も高まります。冷蔵技術がなかった時代の偶然の産物である発酵食品は、人々の知恵や工夫によって大切に受け継がれ、食文化の豊かさにつながっていったのです。

熟成と発酵の違いとは!?

お茶の発酵

普段なにげなく耳にする「熟成」と「発酵」ですが、どのような違いがあるのでしょうか?発酵は食品に付着した酵母、乳酸菌、カビ、麹菌などの微生物が持つ酵素によって、食品に起こる変化のことです。例えば、パンではパン酵母が生地の糖類を分解し、炭酸ガスとアルコールに変化させることで生地が膨らみ、焼き上げたときのふんわりとした食感が生み出されます。

じつは、食べ物が腐って食べられなくなる腐敗も、微生物が食品を変化させる現象です。発酵と腐敗の違いは「人の視点」という曖昧なもので、有用で安全な食品変化は発酵、有害な場合は腐敗と呼ばれています。※2

一方、熟成は微生物ではなく、食品自体が持つ酵素の働きによって起こる変化です。身近な食材でいうと、肉に弾力がありながら柔らかさがあるのは数日かけて熟成しているからです。熟成させることで肉に含まれている酵素によってたんぱく質などが分解され、一時的に減っていた保水力が回復し、うま味であるアミノ酸が増えておいしくなるのです。※3

発酵熟成食品としてチーズや味噌などが挙げられます。これは、微生物によって発酵したのちにその食品が元々有している酵素(あるいは一部、微生物由来の酵素)の働きによって分解・熟成されたもので、この熟成の過程でうま味のある複雑な風味が生まれるのです。

発酵によって分類されるお茶 お茶の発酵とは?

初夏になると茶摘みが始まり、新茶が出回ります。ツバキ科カメリア属であるチャノキの葉を加工したお茶には緑茶や紅茶、ウーロン茶などがあり、発酵の違いによって「不発酵茶」「半発酵茶」「発酵茶」の大きく3つに分類されます。※4

茶葉はもともと鮮やかな緑色ですが、発酵させることによって色合いや風味の変化が起こります。発酵が進むと成分が赤みを帯びていき、紅茶やウーロン茶のような色になります。

「不発酵茶」の代表的なお茶は緑茶です。緑茶は茶葉の発酵が進まないように、まず蒸したり炒ったりして熱を加えます。茶葉の美しい緑色と、フレッシュな香りが緑茶の特徴です。

「半発酵茶」の代表的なお茶はウーロン茶です。茶葉を適度に発酵させたあと、炒ることで発酵を止めます。発酵の状態によって味わいが異なり、複雑な香りや風味を楽しめます。

「発酵茶」の代表的なお茶は紅茶です。茶葉を完全に発酵させています。紅茶独特の華やかな香りと深い色合いは、発酵によるものです。

このように、茶葉の変化を発酵と呼んでいますが、じつはほとんどのお茶の発酵には微生物は関わっていません。いわゆる微生物が関わる発酵食品ではないのです。お茶の発酵とは、今までご説明してきた発酵や熟成とは違い、バナナの色が変化するように成分が「酸化」することを指しています。※5

☆お茶の発酵についてはこちらでも紹介しています。
お茶の種類は100種類以上!発酵の有無で決まるお茶の分類とは

お茶の発酵に関わるポリフェノールとは

お茶の発酵

それでは、お茶の発酵=茶葉の酸化はどのように起こるのでしょうか?
お茶の原料になるチャノキの葉には、カテキンをはじめとするポリフェノールが含まれおり、茶葉の酸化に関わっています。

ポリフェノールとは、ほとんどの植物が持つ色素や苦み、渋みのような成分です。茶葉のカテキンのほかに、赤ワインのアントシアニン、蕎麦のルチンなどがあり、自然界には8000種類以上存在するといわれています。

茶葉にはポリフェノールだけでなく、ポリフェノール酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)が存在しています。ポリフェノールとポリフェノール酸化酵素は、茶葉の中で別々に存在していますが、揉んで傷をつけることで互いに反応して酸化が進みます。

「茶葉を揉む」という工程は、茶葉に含まれる酸化酵素を活発にさせるためだったのです。このように、お茶の製造過程で起こるポリフェノールの酸化が、お茶の香りや色、風味に変化をもたらしているのです。※5

ウーロン茶や紅茶のような半発酵茶と発酵茶は本来の意味での発酵の定義には当てはまりませんが、食品を豊かな味わいに変化させ、人々の知恵や工夫で食文化を豊かにした点は共通しているのではないでしょうか。

【参考文献】
※1 農林水産省
https://traditional-foods.maff.go.jp/files/user/pdf/japanese_hakko.pdf#page=9
※2 財団法人 食品分析開発センター
http://www.mac.or.jp/mail/100701/02.shtml
※3 日本食肉科学会
https://jmeatsci.org/column/%E9%A3%9F%E8%82%89%E3%81%AE%E7%86%9F%E6%88%90
※4 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2204/spe1_03.html#main_content
※5 三井農林
https://www.ochalabo.com/knowledge/knowledge20141205.html

  • はせがわじゅん

  • ライタープロフィール
    はせがわ じゅん(管理栄養士)
    WEBメディアで食や栄養に関わる記事の執筆のほか、レシピ開発、栄養計算を行うとともに、年間約300名以上の特定保健指導に携わっています。