2023.10.10

お煎餅の歴史とは?国民的アニメにも描かれた日本のソウルフード

ドラマやアニメで食べ物が登場すると思わず目を奪われてしまいますよね。あるアニメではその食べる姿が印象的に描かれ、ある映画では踏み絵として登場するなどもしたお煎餅。このように取り上げられるのは、お煎餅が日本人のソウルフードと言っても過言ではない身近なお菓子だからこそ。では、日本ではいつごろからお煎餅を食べるようになったのでしょうか。お煎餅の歴史に迫ります。

国民的アニメで描かれたお煎餅

近年、残酷かつ不老不死の悪鬼に立ち向かう剣士たちの物語がブームを巻き起こしています。大正時代を舞台にしたこの国民的ともいえるアニメのワンシーンでは、主人公の母親が、残ったお餅でお煎餅を焼く場面が描かれ、食べる音とともに印象的なシーンとなっています。
残ったお餅でお煎餅が作れるのかと疑問に思うかもしれません。今は手軽にお煎餅が手に入ることもあり、手作りすることは多くないと思います。では、お煎餅はどのように作られているのでしょうか。

このアニメの中で、お煎餅はお餅(=米)から作られています。米を原料にした干菓子を米菓と呼びますが、これらは「お煎餅」「あられ」「かき餅(おかき)」に分けられます。※1

米菓のお煎餅は、うるち米から作られます。まず、粉にしたうるち米に湯を加えて練り、お餅のようにまとまったら蒸します。
蒸しあがったものをついて、薄く伸ばし、丸型などで型抜きしたら、じっくり乾燥させます。その後、焼き上げて醤油や塩などで味付けしたら出来上がりです。※2

あられとかき餅の原料はもち米です。まず、蒸したもち米をついてお餅にし、冷却します。その後、薄く伸ばして切り分け、乾燥させたものを焼き上げます。これを調味料で味付けして出来上がりです。
あられとかき餅は大きさによって分かれ、小さなものがあられ、大きなものがかき餅と呼ばれます。※1※2

お煎餅の歴史

お煎餅 歴史

お煎餅といえば「米どころのお菓子」というイメージが強いかもしれませんが、一方で、お煎餅と聞いて瓦煎餅や南部煎餅のように小麦粉で作ったものを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
お煎餅は米から作られたものと、小麦粉から作られたものの2種類に大別できます。さまざまなお煎餅が作られてきた歴史には、どのような背景があるのでしょうか。

お煎餅の由来は諸説あり、はっきりとしていません。数ある由来のひとつには唐に渡った空海が製法を日本に持ち帰ったという説があります。空海が伝えたとされる製法は、くず根、米粉、果実の糖液を混ぜ、亀甲型に焼き上げるというもので、これが日本におけるお煎餅のはじまりといわれています。当時のお煎餅は現在の米菓と違い、小麦粉で作る煎餅に近かったと考えられています。※4※5※6

また、平安時代の辞書である「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」に煎餅の項目があり、「油を以て小麦麺を熬(い)るなり」と記述されています。
どのような形なのかは不明ですが、平安時代のお煎餅とされるものは、小麦粉で作られていたと考えられます。※4※5※6※7

それより前の弥生時代には米から作られたお煎餅の先祖のようなものが食べられていたのではないかとも考えられています。稲作が行われていた弥生時代にはお餅を作り、人々はさらにそれを焼いて食べていました。火を通りやすくするために、お餅を薄く伸ばしていたかもしれません。弥生人たちは薄くしたお餅を焼くことで、現在のお煎餅のようなものを食べていたと考えられています。※8

お煎餅の由来ということになると様々な説があるようですが、そのルーツとなるものは古くから食べられていたといえるでしょう。

日本のソウルフードになったお煎餅

お煎餅 歴史

米や小麦粉で作ったお煎餅が広く食べられるようになったのは、江戸時代だといわれています。
この頃に作られていたお煎餅は、現在のお煎餅に近いもので、米で作る「草加煎餅」や小麦粉から作る「亀甲煎餅」など、全国各地で名物煎餅が誕生しました。※4※5※6

さまざまな種類が作られたのは、小麦粉のお煎餅といわれています。
江戸時代になると鉄製鋳物の技術が発展し、さまざまな形の型で小麦粉の生地が焼かれ、いろいろなお煎餅が作られました。
フォーチュンクッキーの起源といわれている、お煎餅の中に占いの紙を忍ばせた「辻占(つじうら)煎餅」が作られたのも江戸時代です。※4※5※6

では、米から作るお煎餅はどのように発展したのでしょうか。
前述の映画でも郷土愛を示すアイテムとして描かれた草加煎餅は、古くから、農家が古米を粉にして蒸し、塩を混ぜて成型したものを干してから焼いて食べていたそう。
もともと農家で食べられていたというこの塩煎餅を、宿場町でもあった草加で売り出したところ評判となり、街道の名物になったといわれています。醤油の製法技術が発展すると、醤油を塗った草加煎餅が作られ、人気を集めるようになりました。※4※5※6※9

江戸時代に生まれたお煎餅の中には、現在も食べられているものがあります。また、名産品としてのお煎餅だけでなく、スーパーマーケットなどで気軽に食べられるおやつとしてのお煎餅も数多く並んでいます。長い年月をかけて親しまれてきたお煎餅は、このように日本のソウルフードとして定着したのです。


☆おせんべいにまつわる話はこちらでも紹介しています。
せんべいとおかき、あられの違い。うるち米って知っていますか?
草加せんべいと南部せんべい なにが違う?お米と小麦で変わるおせんべいのルーツとは


<参考>
※1 あられ・おせんべいの種類
https://www.arare-osenbei.jp/type/
※2 あられ・おせんべいが出来るまで
https://www.arare-osenbei.jp/make/
※3 性学もち
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/seigaku_mochi_chiba.html
※4 事典 和菓子の世界 中山圭子
※5 知っておきたい和菓子のはなし 小西千鶴
※6 たべもの起源事典 岡田哲
※7 倭名類聚抄
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100072412/1?ln=ja
※8 日本大百科全書 煎餅
https://kotobank.jp/word/%E7%85%8E%E9%A4%85-551216
※9 草加煎餅の歴史と現在
https://www.city.soka.saitama.jp/cont/s1403/010/010/020/01.html


  • はせがわじゅん

  • ライタープロフィール
    はせがわ じゅん(管理栄養士)
    WEBメディアで食や栄養に関わる記事の執筆のほか、レシピ開発、栄養計算を行うとともに、年間約300名以上の特定保健指導に携わっています。