お煎餅を食べると軽やかな「パリパリ」という音がしますが、この「パリパリ」という咀嚼音も魅力の一つです。一般的に食べ物はよく噛んで食べることが推奨されていますが、お煎餅は意識しなくてもしっかりと咀嚼する食べ物ではないでしょうか。咀嚼とカラダの関わりやパリパリという言葉で表現されるお煎餅の咀嚼音に注目しました。
咀嚼とカラダの関わり
咀嚼とは、食べ物をよく噛みくだいて味わうことです。食べ物をしっかりと咀嚼して、ゆっくりと食べる行為には、体に対するさまざまな効果が期待されています。
食べる時間が短い「早食い」が習慣になっていると、メタボリックシンドロームの割合が高くなるとの報告があります。一方で、しっかりと咀嚼しながら食べている場合は、中枢神経系が刺激されて満腹感が得られるため、食べ過ぎの防止や内臓脂肪の分解にも効果的とされています。※1※2
また、よく噛むことは将来的なオーラルフレイルの予防にもなります。オーラルフレイルとは、高齢期に起こる食べこぼしや滑舌低下、わずかなむせ、噛めない食品があるなどの症状です。このような口腔機能の衰えは、身体の衰えとも大きく関わっています。 健康的な体を維持するには、咀嚼の回数を増やすこともひとつの方法です。咀嚼が増えると唾液が大量に分泌されるため、歯周病の予防や消化がよくなるなど、さまざまな良い効果が期待できます。※3
☆咀嚼と健康についてはこちらでも紹介しています。
・咀嚼で増える?マイオカインという幸せホルモンに似た物質の正体とは
食事をよく噛んで食べるためには、食べ応えのある野菜やきのこ類、海藻類などの食物繊維を多く含む食材を取り入れる方法があります。また、食材を加熱して柔らかくするとともに、歯触りを残して調理する方法もあります。間食でも、草加煎餅のような堅焼きのお煎餅などを食べると、咀嚼の回数増加につながるのではないでしょうか。
パリパリという咀嚼音を表す世界の言葉
食べ物の味を誰かに伝える時、塩味や甘味のような味わい、モチモチしているなどの食感、咀嚼音などで表されると思います。お煎餅の咀嚼音は「パリパリ」と表現され、その響きで固さや食感が目に浮かぶようです。パリパリのような状態や動きなどを音で表した言葉は「オノマトペ」と呼ばれます。※4
おいしそうな料理がたくさん登場するグルメ漫画でも、咀嚼音を表すオノマトペは欠かせないものとなっています。ラーメンの麺をすする「ズズーッ」、トンカツの衣を食べたときの「サクッ」など、絵だけでなくオノマトペでも食べ物の特徴が伝わってきます。
では、世界の国々では、お煎餅のような軽い食感のものを食べる時、どのような言葉が使われているのでしょうか。日本語の「パリパリ」と同じ意味として使われている言葉は、英語で「crispy(クリスピー)」、フランス語で「croustillant(クルスティヤン)」、イタリア語で「croccante(クロッカンテ)」です。どの言葉も形容詞であり、「カリッとした」や「パリパリの」という意味です。ただし、パリパリのように音そのものを表しているわけではなさそうです。
海外で使われているオノマトペには、音そのものを表している言葉もあります。例えば、鶏の鳴き声です。日本語では「コケコッコー」と表現される鶏の鳴き声が、英語では「cock-a-doodle-doo(クック ドゥードゥル ドゥー)」、フランス語では「cocorico(ココリコー)」、イタリア語では「chicchiriare(キッキリアーレ)」となります。表現は違えど、音として聞いた鶏の鳴き声といえるのではないでしょうか。
日本で表現されるお煎餅の咀嚼音「パリパリ」と同様の音そのものを表すオノマトペは海外の言葉にないようです。しかし、外国人がお煎餅の咀嚼音を聞き、日本語の表現方法を聞くと、その響きに納得するかもしれません。
動画配信でも注目される咀嚼音
動画配信で「ASMR」という言葉を目にしたことはないでしょうか。ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)」の略であり、音声や映像によって頭や首の後ろなどがゾワゾワとし、心地良さを覚える感覚を指します。ASMRの動画はリラックス効果やストレス解消になると話題になり、注目されているようです。しかし、カラダとASMRの関わりを研究した例は少なく、学術的な観点からは明確に分かっていません。※5
日本で行われたASMRの研究のひとつをご紹介します。これはASMRの動画を見た場合と、音だけを聴いた場合の効果を比較した研究です。 19歳以上の30名を対象に機能的MRIを用いて脳の変化を調べています。その結果、音だけの場合は自律神経のバランスに関わる大脳の領域を占める皮質の一つ「島皮質(とうひしつ)」が活性化し、動画では前脳にある一対の神経核「側坐核(そくざかく)」などが活性化したことから、不安症状の改善に関与する可能性が期待されると報告されています。※6
ASMRの動画には、お煎餅を食べるパリパリという咀嚼音だけでなく、たき火が燃える時のパチパチという音、包丁でスイカを切る音など、さまざまなものを見つけることができます。動画配信でASMRを体験するのもよいですが、実際にお煎餅を食べて咀嚼音を耳にし、心地良い感覚を味わってみるのもよいですね。
咀嚼は肥満や口腔内の機能低下予防などにつながり、健康的な体の維持にも関わると期待されています。お煎餅を食べる咀嚼音「パリパリ」は状態を表すオノマトペで、海外の言葉に置き換えることもできますが表されていないようです。
【参考文献】
※1 肥満症診療ガイドライン2022 第5章
http://www.jasso.or.jp/contents/magazine/journal.html
※2 メタボと咀嚼の能率性に関連性がある事を世界で初めて明らかに
https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/11/281110.pdf
※3 オーラルフレイル
https://www.jda.or.jp/enlightenment/oral/about.html
※4 オノマトペ
https://www.weblio.jp/content/%E3%82%AA%E3%83%8E%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%9A
※5 ASMR が脳活動と気分状態に及ぼす影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sst/10/2/10_179/_pdf/-char/ja
※6 ASMRの動画が脳機能にもたらす効果
https://www.nuhw.ac.jp/research/2023/02/asmr.html
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ライタープロフィール
はせがわ じゅん(管理栄養士)
WEBメディアで食や栄養に関わる記事の執筆のほか、レシピ開発、栄養計算を行うとともに、年間約300名以上の特定保健指導に携わっています。
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