近年の研究によって明らかとなったマイオカインは、骨格筋(筋肉)から分泌される物質の総称です。筋肉を鍛えてマイオカインを増やすことで、さまざまな健康、美容効果があることがわかってきました。咀嚼でも増えるとされるマイオカインについて紹介します。
驚きの最新研究から判明!「骨格筋は臓器」!?
私たちの筋肉はどんな働きをしているでしょうか。体を支え、内臓を守り、関節を曲げ伸ばしし、正しい姿勢をキープする…?どれも正解です。筋肉が落ちると姿勢が悪くなり、動きにくくなりますよね。筋肉が多い人は体温が高いとも言われますが、筋肉は代謝を上げ、エネルギーを生み出すエンジンのような働きもしています。※1
しかし、ここ20年ほどの研究で筋肉、とりわけ骨格に沿ってついている骨格筋には、それ以上の働きがあることが明らかになりました。骨格筋からはホルモンのような生理活性物質が分泌されており、ほかの器官や臓器にメッセージを送ったり受け取ったりしつつ、体を最適な状態に保つ働きをしていることがわかったのです。※2
これはまさに「臓器」の働きです。つまり、体重の3〜4割を占める骨格筋は、「人体最大の臓器」ということになります。骨格筋が分泌している物質の種類はいろいろありますが、それらはまとめて「マイオカイン(myokine)」と呼ばれ、今のところ数十種類が発見されています。その中には血糖値を安定させるもの、代謝を活性化させるもの、筋肉の合成を高めるもの、さらには血管の老化を抑制したり、ガンのリスクを減らしたりするものも含まれています。筋肉がこんな働きをしているなんて驚きですよね。※3
まるで幸せホルモン!?マイオカインの効果は認知や美容にも
マイオカインは、うつやストレスの解消など、メンタルヘルスにも大きく関係しています。ある大学では、脳の機能を活性化させる「脳由来神経栄養因子(BDNF)」に注目して研究を行っていますが、特定のマイオカインが増えるとBDNF発現が高まり、脳機能が改善して認知機能やうつなどの精神疾患が改善するそうです。※4
さらに大手化粧品会社の研究によると、筋肉の量が多い人ほどシミやシワが少なく、肌の状態が良いのだとか。マイオカインはコラーゲンの生成にも関わっているため、皮膚の状態にも影響を与えていると考えられています。※5
近年、「幸せホルモン」という言葉をよく耳にするようになりました。そんな幸せホルモンの中でもポピュラーなもののひとつ「オキシトシン」は、肌の再生力を促す働きを持っています。また、「セロトニン」は精神を安定させ、ポジティブな気分にしてくれます。ストレスを解消し、うつを和らげるマイオカインも、まるで幸せホルモンのような働きをしているわけですね。
こうした効果からマイオカインは海外で「hope molecule(希望の分子)」と呼ばれています。マイオカインは脳、体、精神に直接リンクし、私たちに希望を与えてくれるのです。※6
カギは咀嚼?マイオカインの分泌を増やす方法
では、どうすれば私たちにとって希望の分子であるマイオカインを、たくさん分泌することができるのでしょうか。答えは「運動すること」です。なぜならマイオカインの多くが「運動誘発性」、つまり運動することで分泌される性質を持っているからです。※7
筋力トレーニングなどを行うと、マイオカインの分泌量が増えます。中でも効果的なのはスクワットなど、下半身の大きな筋肉を鍛える運動です。
じつはマイオカインの中にも筋肉の質を悪くするものが存在するのですが、運動すればそのいわゆる“悪玉”マイオカインを減らせることも分かっています。健康で長生きするには運動が大切だと言われますが、それにはマイオカインのこうした働きが関係していたのですね。
しかし、運動が苦手な人や運動する時間がないという人も多いもの。そこでおすすめしたいのが、よく噛んで食べること。嬉しいことにマイオカインはハードな運動をしなくても、普段使わない筋肉をちょっと使うだけで分泌されるのです。※8
何かを食べる時には咀嚼筋と表情筋を使いますね。柔らかいものばかりでなく歯ごたえのあるものをよく噛んで食べ、これらの筋肉をフルに活用してマイオカインを増やしましょう。“善玉”マイオカインを増やし、健康をキープするために、運動すること、よく噛んで食べることを習慣にしたいものです。
マイオカインの増量だけじゃない 咀嚼によるメリットとは
よく噛んで食べることは、マイオカインを分泌させるだけでなく、ほかにも多くのメリットがあります。咀嚼によってあごの機能が発達し、リフトアップ効果に繋がります。特に顔のたるみや二重顎予防には効果大です。
また、よく噛むと唾液がたくさん分泌され、消化を助けます。唾液が増えれば虫歯を予防することもできます。さらにはしっかり噛んでゆっくり食べることによって満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防いで太りにくい体を作ることにも繋がります。咀嚼によって血流が増加し、脳神経が刺激され、脳が活性化するということも証明されています。
私たちは内臓を自分の意志で動かしたり、鍛えたりすることはできません。しかし、筋肉なら自分で動かして鍛えることができます。筋トレや日々のちょっとした運動、そして食事やおやつの時間にしっかり咀嚼することでマイオカインを増やし、より健康に、より美しくなりたいものですね。
☆歯ごたえのあるおせんべいは咀嚼の回数を自然と促すことができます。こちらもあわせてご覧ください。
・子どもの咀嚼力は脳の発達や歯並びにも影響する?噛む力の大切さとは
・「咀嚼」はカラダにいい?お煎餅の咀嚼音「パリパリ」は世界共通か?
・おせんべいの絶品アレンジレシピ トッピングや味変で広がる楽しみ方
【参考文献】
※1 沢井製薬
https://kenko.sawai.co.jp/body-care/202010.html
※2 名古屋ハートセンター
https://www.nagoya.heart-center.or.jp/div04_7_archive/div04_7_220201.html
※3 日本医事新報社
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12625
※4 KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-17H04758/17H04758seika.pdf
※5 ポーラ化成工業
https://www.pola.co.jp/about/news/2020/bd2jfg0000000nl0-att/po20200204_3.pdf
※6 The Guardian
https://www.theguardian.com/commentisfree/2023/may/04/exercise-mental-health-hope-molecules-mood-strength
※7 沢井製薬
https://kenko.sawai.co.jp/theme/202304.html
※8 Forum8
https://www.forum8.co.jp/topic/hap124.htm
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。
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