ゆったりとした気分でお茶を味わうときにお煎餅やかりんとうなどのお茶請けがあるとうれしいものですが、お茶請けとともにお茶を楽しむ習慣があるのは日本だけではありません。大阪万博の開幕を迎えるこの機会に、世界のお茶請け事情をのぞいてみませんか?
今回は、イギリスのスコーンや中国の月餅(げっぺい)など、各国で親しまれているお茶請けをご紹介します。
くつろぎの時間に欠かせない世界の「お茶請け」を知ろう!
お茶請けとは、お茶を飲むときに食べるお菓子などを指します。食べ物のジャンルに特に決まりはなく、緑茶には甘い和菓子のほか漬物や塩昆布が添えられることもあります。しかし、お茶請けとしてよくイメージされるのはお煎餅やかりんとうなどのお菓子が定番ではないでしょうか。
会話のきっかけになったりくつろぎの時間をより充実させるなど、日々の暮らしのなかでお茶とお茶請けは大切な役割を果たしますが、こうした文化は日本だけにとどまりません。大阪万博の開幕を迎え世界の国々への関心が高まる今、各国のお茶請け事情にも目を向けてみましょう。
☆緑茶だけでなく紅茶や中国茶にも合う和菓子について、こちらでご紹介しています。
・お茶請けとは?ピッタリな和菓子の種類は?知っておきたい「お茶請け」の基本
スコーンとは 紅茶の風味を引き立てるイギリスのお茶請け

世界で最も生産量が多いお茶は紅茶です。※1 紅茶と相性がいいお茶請けのひとつにスコーンがあります。スコーンは小麦粉やバター、牛乳などを材料とする焼き菓子で、イギリスのアフタヌーンティーに欠かせない存在として知られています。
スコーンの発祥地はスコットランドで、粗挽きの大麦粉を使用した伝統的な焼き菓子「バノック」が起源とされています。※2
ところで、スコーンには「イングリッシュスコーン」と「アメリカンスコーン」の2種類があるのをご存じでしょうか?イングリッシュスコーンは、一般的にジャムやクロテッドクリームをつけて食べるティータイムのお供です。一方、アメリカンスコーンはドライフルーツやナッツなどが入ったものもあり、朝食やブランチの一品としてもよく食べられています。
また、イングリッシュスコーンは丸型か菊型で焼き方がソフトなのに対して、アメリカンスコーンは三角形にカットしてしっかりと焼き上げられ、ザクザクした食感で紅茶のほかコーヒーにもよく合います。※3
紅茶の魅力は豊かな香りと風味にあります。素朴でシンプルな味わいのイングリッシュスコーンをお茶請けに、紅茶のおいしさを堪能しましょう。
☆世界各国で飲まれているお茶の種類についてはこちらでご紹介しています。
・お茶の種類は100以上!発酵の有無で決まるお茶の分類とは
マカロン フランスの優雅でカラフルなお茶請け

フランスには、イギリスよりも早い時期からお茶を飲む文化がありました。初めは緑茶を薬用として東洋から輸入していましたが、19世紀以降は紅茶が嗜好品として楽しまれるようになりました。
当時のフランスで紅茶は高級品で、「サロン・ド・テ」と呼ばれるティールームで貴族が嗜むものでした。※4 サロン・ド・テの文化は現代にも受け継がれており、紅茶とともにたくさんのお菓子が提供されています。そのなかのひとつが、日本でも人気の高いマカロンです。
マカロンはアーモンドパウダーと砂糖、卵白から作られる焼き菓子で、フランスのスイーツとして知られていますが、もとはイタリアから原型が伝わったとされています。たんぱく質が豊富で栄養価が高いことから、フランス各地の修道院で作られるようになりました。※5
ロレーヌ地方ナンシー市で広まった素朴な味わいの「スール・マカロン」、ピカルディ地方でハチミツと卵黄を加えて作られる「マカロン・ダミアン」など、現在も各地にさまざまなマカロンがあります。日本で親しまれているのは「マカロン・パリジャン」と呼ばれ、表面がなめらかでふんわりした生地の間にガナッシュやクリームを挟んだものです。※6
繊細な口当たりと鮮やかな色合いが好まれ、今やマカロンはフランスだけでなく世界の人々を魅了するお茶請けとなっています。
季節を楽しむ伝統菓子 中国のお茶請け「月餅」は家族団らんの象徴

中国茶の種類は1000以上にも及び、日本でなじみのあるウーロン茶だけでも、鉄観音や凍頂烏龍など数多くの種類があります。
中国は、お茶と同様にお菓子もバリエーションが豊富です。なかでも月餅は地域ごとに特色があり、広州、北京、蘇州、雲南のものが「伝統四大月餅」とされています。日本でよく目にする月餅は広州のもので、薄い皮のなかにぎっしりと餡が入っています。
月餅の餡もさまざまで、蓮の実が入った定番の「蓮蓉餡」、ナッツや果物入りの餡のほか、塩漬けにしたアヒルの卵黄や豚肉が使われているものもあります。※7
月餅は、旧暦の8月15日にあたる中国の大切な節句「中秋節」に欠かせないお菓子です。中秋節には家族や仲間が集まり、お茶と月餅を味わいながら団らんのひとときを過ごします。※8
日本人と同様、中国人にとってもお茶は生活の一部で、月餅を頬張りながら中国茶を楽しむ姿もよく見られます。月餅は中国における代表的なお茶請けのひとつといえるでしょう。
☆お茶の起源と平安時代のお茶菓子についてはこちらでご紹介しています。
・紫式部もお茶菓子を食べた?平安時代にも飲まれていた「お茶の起源」とは?
スウェーデンにベトナム…世界のお茶とお茶請けを楽しもう
スウェーデンには、お茶やコーヒーを飲みながらリラックスする「フィーカ」と呼ばれる習慣があります。フィーカでは、飲み物と一緒にシナモンロールやクッキーなどを食べてくつろぎ、家族や仲間との交流を楽しみます。※9
また、ベトナムもお茶を飲む習慣がある国のひとつです。ベトナムでは「バイン・ダウサイン」という緑豆を使ったお菓子や、蓮の実に砂糖を絡めた「ムッセン」という甘納豆のようなお菓子が伝統的なお茶請けとして親しまれています。※10
緑茶に蓮の香りをつけた「蓮茶」とよく合うそうです。
今回は、くつろぎの時間をより豊かにする各国のお茶請けをご紹介しました。大阪万博をきっかけに、世界のお茶とお茶請けを味わってみてはいかがでしょうか。
☆緑茶のお茶請けにぴったりのせんべいについてはこちらでご紹介しています。
・せんべいとおかき、あられの違い。うるち米って知っていますか?
・おせんべいとお茶は好きですか?復活するインバウンド!急増する外国人観光客のホンネ
・草加せんべいと南部せんべい なにが違う?お米と小麦で変わるおせんべいのルーツとは
・お煎餅の歴史とは?国民的アニメにも描かれた日本のソウルフード
【参考文献】
※1 三井農林株式会社
https://www.nittoh-tea.com/enjoy/knowledge/knowledge07.html
※2 吉田菊次郎(2021年)「万国お菓子物語」 講談社
※3 羽根則子(2019年)「イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方」 誠文堂新光社
※4 公益財団法人 世界緑茶協会
https://www.o-cha.net/teacha/bunka/france.html
※5 猫井登(2016年)「お菓子の由来物語」 幻冬舎
※6 山本ゆりこ(2019年)「フランス伝統菓子図鑑 お菓子の由来と作り方」 誠文堂新光社
※7 甘露(2023年)「はじめての中国茶とおやつ」 誠文堂新光社
※8 周星「国民休日となった中秋節」日本民俗学 309号 2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonminzokugaku/309/0/309_186/_pdf/-char/ja
※9 ヴェントゥラ愛(2023年)「ほっとする北欧のおやつ」 KADOKAWA
※10 西村昌也「ベトナムの茶飲文化・茶業に関する資料初探」東アジアの茶飲文化と茶業 2011
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/record/2232/files/04-nishimura.pdf
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ライタープロフィール
いしもとめぐみ
管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。
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