2月14日のバレンタインデーはお菓子にまつわる大きなイベントのひとつで、「女性が思いを寄せる男性にチョコレートを贈る」という風習は、私たち日本人にとってはなじみ深いものです。しかし、これは日本特有の文化だということをご存じでしょうか。さらに、近年はこの習慣も変わりつつあるようです。バレンタインデーの起源と世界各地のバレンタイン事情、変化する日本のバレンタインについて解説します。
バレンタインデーの由来はローマ時代のイタリアにあり?

「バレンタインデー(Saint Valentine's Day)」は3世紀、古代ローマ時代にイタリアに実在した司祭「バレンタイン」に由来するとされています。
当時のローマ皇帝は士気が下がるという理由で兵士の結婚を禁止していましたが、それを哀れに思ったバレンタインはひそかに兵士たちを結婚させていたのです。それが明るみに出て処刑されたのが2月14日だったというのが、もっとも有名なバレンタインデーの由来とされるストーリーです。※1
またバレンタインデーの起源は、さらに古い「ルペルカリア祭」にさかのぼるという説もあります。2月14日は結婚の女神「ユノ」の祝日で、この翌日から多産を祈願する祭りが行われていました。この土着の祭りが、キリスト教化をすすめたいローマ皇帝によってバレンタイン司祭の逸話と結びつけられ、キリスト教の祭りとして取り入れられるようになったというものです。※2
のちに「聖人」とされるようになったバレンタインの命日は、14世紀頃から恋愛と関連づけて扱われるようになり、愛を誓う日として市民に浸透していきます。1600年頃に書かれたシェイクスピアの『ハムレット』にも、主人公の恋人のオフィーリアが「明日は聖バレンタインデー」と歌うシーンがあります。
バレンタインデーの過ごし方 日本と違う海外事情とは
起源については諸説ありますが、バレンタインデーは今や世界各国で特別な日として定着しています。国が違えば過ごし方もさまざまで、欧米ではバレンタインデーに男性から女性へ贈り物をするのが一般的です。花やジュエリー、カードを贈ることが多く、ちょっとおしゃれなレストランのディナーに出かけるなど、夫婦や恋人が二人きりで過ごすという国もあるようです。
タイではバレンタインデーは「男性から女性に愛を告白する日」とされ、プレゼントの定番は赤いバラとクマのぬいぐるみです。バレンタインデーにプロポーズする人も多く、また「愛の街」を意味するバーンラックという地区の区役所は、この日は婚姻届を提出するカップルであふれかえるといいます。※3
台湾や中国では、2月14日のほかに旧暦の7月7日も「恋人の日」とされ、カップルが贈り物をしたり愛を確かめ合ったりします。一方、メキシコやフィンランドのバレンタインデーは「愛と友情の日」で、カップルだけでなく友達同士でも感謝を伝え合います。
ちなみにイタリアではバレンタインデー翌日の2月15日は「シングルの日(聖ファウスティーノの日)」で、恋人のいない人たちが集まってパーティが開かれます。また韓国では4月14日を「ブラックデー」として、同じく独り身の人たちが黒い服を着て黒い麺料理を食べるというユニークなイベントが広まっています。※4
ガラパゴス化し、国民的行事になった日本のバレンタインデー

日本には戦後になってバレンタインデーが取り入れられ、1960年前後から流行し始めたようです。そして、バレンタインデーは日本で独自の進化を遂げます。
バレンタインデーに「女性が好きな男性にチョコレートを贈る」というのは日本独自の文化で、男性から女性にプレゼントを贈ることの多い諸外国とは逆です。また、贈り物がチョコレートにほぼ限定されているというのも面白いですね。
これはチョコレートメーカーの販売戦略ともいわれていますが、1970年代にはこの形のバレンタインデーがすっかり定着しました。デパートでは2月14日に向けて特設売場が設けられ、有名パティシエやショコラティエの手による高級チョコレートをはじめ、お菓子メーカーが趣向を凝らした多くの商品が並びます。日本では冬の風物詩ともいえる一大イベントで、チョコレートの年間消費量のおよそ2割がバレンタインデーに集中しているというのもうなずけます。※5
ちなみに、バレンタインデーの1か月後の3月14日にお返しの贈り物をする「ホワイトデー」も、日本で生まれた独自の風習です。
友チョコ、感謝チョコ、和のお菓子も!
日頃の感謝や自分へのご褒美を

国民的行事ともいえるバレンタインデーですが、最近は少々趣が変わってきました。好きな人への本命チョコだけでなく、応援している有名人に贈る「推しチョコ」、友達や家族にあげる「友チョコ」「家族チョコ」、気に入ったチョコレートを自分へのご褒美として購入する「自分チョコ」「ご褒美チョコ」が増えています。なお、賛否が分かれる「義理チョコ」は「感謝チョコ」と呼ばれるようになり、意味合いにも変化がみられます。
さらに、女性に交じって男性がバレンタインデー向けのチョコレート売場の購入の列に並ぶ姿も珍しくなくなりました。「バレンタイン=チョコレート」という常識さえ変わってきているようです。
2024年に行われたアンケート調査では、男性の3割がバレンタインギフトを購入すると回答しました。また、ギフト購入者の半数以上がチョコレート以外の品物を贈ると答えており、チョコレートにこだわらないプレゼントを選ぶ人も多いことがわかります。甘いものが苦手な人に贈るなら、おせんべいやこだわりのかりんとうなども気の利いた贈り物になるかもしれません。
日本人は男女に関わらず、身近な人に気持ちを伝えるのが少し照れくさくて苦手と感じる人が多いのではないでしょうか。バレンタインはシャイな日本人が日ごろの感謝や愛情を伝えるちょうどよいきっかけなのかもしれません。
☆チョコレートではない甘い贈り物には「雪の宿」や「三幸の柿の種 梅ざらめ」、おしゃれなかりんとうをどうぞ!
☆チョコレート以外のお菓子については、こちらでご紹介しています。
・お煎餅の歴史とは?国民的アニメにも描かれた日本のソウルフード
・かりんとうの歴史を深堀り!黒糖かりんとうと白かりんとうの違いとは
・ドルチェって何?スイーツやデザートとの違い。本場の味を再現したお菓子も!
【参考文献】
※1 株式会社明治
https://www.meiji.co.jp/hello-chocolate/column/53/
※2 日経ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5628/
※3 株式会社テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000336969.html
※4 日本気象協会
https://tenki.jp/suppl/y_kogen/2015/04/13/2911.html
※5 株式会社阪急阪神百貨店
https://web.hh-online.jp/hankyu-food/blog/lifestyle/detail/001387.html
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。
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